我が家には3匹の猫が居る。
そのうちの1匹、黒猫『先生』が我が家に来た経緯を以前書いた。
今日はもう1匹居る黒猫『ピーター』のことを書こうと思う。
当時一戸建の賃貸に住んでいた夏のある日、当時は元気だったマルチーズのラブがちょっとした隙に玄関からどこかへ行ってしまった。
普段はきっちり柵をしているのだが、全く私の不注意だ。
慌てた私はすぐに近所を探し回ったが見つからない。
とりあえず警察にも届けておけば、誰かが見つけて保護してくれるかも知れないと思い、自宅近くの交番へ走った。
交番で、すみません愛犬が逃げ出して…と話し、色々書類に記入していた。
すると背後で突然、バタン!とドアが開き、
「そこの〇〇葬祭やけどな、裏のガレージにおったから処分しといて、これ名刺!」
と大きな声で言いながら、おじさんが汚れた段ボール箱と名刺をポイッと投げるように置き、警察官の返事も何も聞かぬまますぐに出て行った。
一体何かと気になり、見れば生まれたての仔猫が4匹。
生後1週間くらいだろうか、まだ目も開かず耳も開いていない。
その間警察官は一言も発せず、黙って仔猫が入った段ボール箱を奥の部屋に持って行った。
こういうことも交番では頻繁にあることなのだろうか。
若い警察官の二人とも、顔色一つ変えず淡々としている。
手続きが終わり、では宜しくお願いします、と交番を出ようとしたところ、自宅で待機していた家族からラブが見つかったとの連絡。
近所に住む子供たちが数人でラブを保護し、家まで連れてきてくれたそうだ。
ホッとして警官にその旨を話し、交番を出た。
さて帰ろうと思ったものの、さっきの仔猫たちがどうにもこうにも気になって、私の足が動かない。
今ここで私が帰れば、あの仔猫たちは間違いなく死ぬ。
通りすがった4つの命。
私は暫く交番の前で固まっていた。
どうしたものか…。
いつまでも交番の前で悩んでいるのも不審…。
決めなくちゃ、早く答えを出さなくちゃ…。
意を決して私は再度交番のドアを開けた。
先ほどの警察官が、どうしました?という顔で私を見た。
「あの~~さっきの仔猫なんですけど、やっぱり殺処分とかになるんでしょうかね」
「あぁ、生き物ですけど落とし物、遺失物扱いになるので持ち主が見つからなければ…。
こういう場合に持ち主が…ということはまず考えられないので、そうなりますね…。」
と、警察官も言葉を濁す。
「もし可能でしたら、私、引き取って里親を探したいと思うのですけど…。」
心の中では(あ~言っちゃった、でもそれはできませんと言われるかも)と思いながら恐る恐る尋ねた。
私の言葉を聞いた瞬間、若い警察官が顔を上げ目を見開いた。
「本当ですか!?」
と、パッと表情が明るくなり、
「では、一応書類上の手続きが必要ですので、終わり次第ご連絡させて頂いてもよろしいですか!?」
職務とはいえ、警察官も人の子。
やはり殺処分の手続きなどしたくは無かったのだろう、余計なことは一切言わなかったが、意外なほど喜んでくれているのが伝わってきた。
踵を返すように慌てて私はペットショップへ走り、猫用ミルクと哺乳瓶を買い、自宅に着いたと同時に、書類上の手続きが終わったので来てもらえますか?宜しくお願いします、と警察官から電話が入った。
最後に母猫のミルクを飲んだのは何時間前だろうか、一刻も早く保護してやらなくては、と慌てて再度交番へ向かう。
そうして4匹の仔猫を連れて帰宅した。
事の発端となった愛犬ラブは、何事もなかったかのようにスヤスヤとお昼寝中。
苦笑するしかない。
3,4時間ごとのミルクにトイレ、一生懸命お世話をして、4匹の仔猫たちはすくすくと成長してくれた。
同時に里親探しもすぐに始めて、幸いなことにひとりの友人が3匹までなら一緒に、ともらってくれることに決まった。
残る1匹は、奇しくも当時独立していた長男が飼っていた、ネオという名の黒猫が病気で亡くなってしまったところだったので、長男にも問うてみたところ、欲しいと言ってくれた。
長男にはネオと同じ黒い仔を託すことにした。
約二か月間のお世話が終わり、仔猫たちは元気に旅立った。
長男は黒猫にピーターと名付け、はた目にも呆れるほどそれはそれは可愛がり、ピーターも長男がいないと生きていけないのではないか?というような成猫になった。
長男が再び一緒に暮らすことになった時、当然ピーターも一緒にやってきた。
俄然賑やかになった我が家。
そんなピーターももう7、8歳になろうか。
もらわれて行った3匹の兄弟たちも、それはそれは愛され育ててもらっている。
あの時、交番に引き返して良かった。
何も見なかったことにして、背中を向けて帰らなくて良かった。
今日は長男が夜勤の日。
寂しがり屋のピーターが、長男を呼ぶ声が今夜も聞こえる。
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